「30回噛め」は科学か、親の忠告か
※本記事は情報提供を目的としており、特定の疾患を治療・診断するものではありません。

この記事のポイント
- 咀嚼回数を増やすと、満腹ホルモン(コレシストキニン等)の分泌タイミングが変わりうる。
- 食べる速度は、1日の総摂取エネルギーに影響する要因の一つとして研究されている。
- 量を減らさず、速度と回数だけ変えるアプローチが続けやすい。
「よく噛んで食べなさい」。子どもの頃、何度言われたでしょうか。当時は「時間がかかって面倒」くらいに感じていたはずです。ところが、同じ量のごはんでも、5分で流し込む日と、20分かけて食べる日では、満腹感の出方が違う——大人になってから、体感として気づく人も多いはずです。
これは気のせいではありません。咀嚼は、消化の入口であると同時に、脳へ「食事が始まった」と知らせる信号の起点でもあります。
【海外トレンド】BMJ Open などに掲載されたメタ分析では、食事速度が速いほど、BMIや体重増加と関連しうるとする報告が欧州の公衆衛生分野で引用されています。
"A faster eating speed was associated with a greater BMI and weight gain."
(訳:食事速度が速いほど、BMIや体重増加との関連が示された。)
出典:Okubo et al., Nutrients (2018) ほか(著者要約)| PubMed
また、咀嚼回数を増やした介入研究では、1食あたりの摂取量が減少し、満腹関連ホルモンの分泌パターンが変化したとする報告もあります(小規模試験。結果の一般化には限界あり)(著者要約)。
一口を噛むたび、味と香りの情報が嗅覚・味覚を通じて報酬系を刺激し、満足感の土台が作られます(著者要約)。同時に、食物が胃に届く前からコレシストキニン(CCK)などの分泌が促され、消化の準備が始まります。唾液と十分な咀嚼は、後段の胃腸負担を下げる役割も担います。
早食いは、これらの信号が脳に届く前に量を入れてしまう状態に近いと考えられます。ダイエットというより、「満足の鐘が鳴るタイミング」を前にずらしてしまうイメージです。スマホを見ながら食べる夜など、咀嚼が浅くなると、この順番がさらに乱れやすくなります。
30回噛めと数える必要はありません。次の一口だけ、スマホを置いて20秒。それだけで、食事の体感は変わることがあります。1週間、夕食の最初の3口だけ試してみてください。満腹の鐘が鳴る位置が、少し後ろにずれるかもしれません。

